日本では労働者が安心して仕事に取り組めるよう、労災保険制度が設けられています。
業務中はもちろん、通勤中のケガも労災認定されれば、無料で治療が受けられます。
では、ぎっくり腰についてはどうなのでしょうか。
こちらの記事では、ぎっくり腰で労災が適用される例について、専門家が詳しく解説しています。
労災とは
ぎっくり腰に労災が適用されるかどうかについて解説する前に、まずは労災制度について知っておきましょう。
労災保険制度は大きく分けて、業務災害と通勤災害の2つに分類されます。
業務災害
業務災害は、業務中や作業中など、就業中に起こったケガに対する保険です。
業務に付随すると認められれば、昼休み中のケガであっても労災認定されることがあります。
例えば、昼休みに社内でねんざした場合など、業務そのものとは関係なくても保険が下ります。
通勤災害
通勤災害は、出勤時や退勤時間に起こったケガに対する保険です。
出勤および退勤ルートが合理的だと判断されれば、保険が下りることとなります。
帰宅中であっても、途中で寄った映画館でケガをしたときなどには、合理的なルートとは認められず、通勤災害は適用されません。
ぎっくり腰に労災は適用される?
ぎっくり腰もケガの一種である以上、仕事中に発生すれば労災が適用されると思われがちです。
実際には、ぎっくり腰に労災が適用されるケースは多くありません。
ぎっくり腰はふとした動作で起こることが多く、業務との因果関係が証明しにくいからです。
例えば、仕事中にペンを落として、拾おうとしたときにぎっくり腰になったとします。
ペンを拾うような動作は日常でもおこなうため、業務に付随する行為とは認められないのです。
ぎっくり腰の労災認定要件について
ぎっくり腰を始めとする腰痛には、労災が適用されにくいのですが例外もあります。
厚生労働省では、
- 災害性の原因による腰痛
- 災害性の原因によらない腰痛
の2つに関して、要件を満たせば労災認定されると規定しています。
少し難しい話になりますが、後ほど分かりやすい例を挙げて解説します。
災害性の原因による腰痛
災害性の原因による腰痛は、厚生労働省によって次のように定義されています。
・腰の負傷またはその負傷の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること
・腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること
腰痛の労災認定
上記の要件を2つとも満たす場合、労災が適用される流れとなります。
災害性の原因によらない腰痛
災害性の原因によらない腰痛は、厚生労働省によって次のように定義されています。
突発的な出来事が原因でなく、重量物を取り扱う仕事など腰の過度の負担がかかる仕事に従事する労働者に発症した腰痛で、作用の状態や作業期間からみて、仕事が原因で発症したと認められるもの
腰痛の労災認定
上記の場合も、労災認定されるとなっています。
ぎっくり腰に労災が適用される具体例
ぎっくり腰への労災認定に関しては、先に紹介した厚生労働省の認定要件が参考になります。
ただ、災害性の原因による腰痛などといわれてもピンときませんよね。
そこで、ぎっくり腰への労災が認定される具体例を分かりやすくご紹介します。
災害性の原因による腰痛の場合
災害性の原因による腰痛の具体例として、次のようなケースが挙げられます。
業務中に予期せぬ負荷が腰へと掛かった
例えば重たい荷物(本棚など)を2人で運んでいたときに、1人が誤って手を滑らせたとします。
そのような突然の出来事でぎっくり腰になった場合、労災認定される可能性があります。
不適当な姿勢で重たいものを持ち上げた
極端に狭い倉庫で、無理な姿勢で重たい荷物を持ち上げるような例です。
通常であれば労災が適用されない業務であっても、動作や姿勢の異常性が発症原因と認められれば、業務災害と認定されます。
災害性の原因によらない腰痛の場合
災害性の原因によらない腰痛の場合、業務に従事する期間がポイントとなります。
筋疲労が原因の腰痛
長距離バスの運転や高所作業など、長時間の同一姿勢や不自然な態勢を強いられると、筋疲労が徐々に蓄積します。
そのような業務をおよそ3ヶ月以上おこなった結果としてぎっくり腰になった場合、労災認定される可能性があります。
骨の変形が原因の腰痛
労働時間の多くを重量物の運搬に当てていると、退行変性(老化)によって骨の変形を招くことがあります。
そのような業務を約10年以上続けた結果としてぎっくり腰になった場合、労災認定される可能性があります。
デスクワーク中のぎっくり腰で労災は下りる?
結論から申し上げますと、デスクワークにともなうぎっくり腰で労災が下りることはまずありません。
デスクワーク中の姿勢は自分で調整できるため、無理な姿勢を強いられる要件に当たらないからです。
また重量物を取り扱う業務でもないため、10年以上勤務していても認定要件を満たすことはありません。
ぎっくり腰で労災を申請する場合の手続き
ぎっくり腰を発症した場合、まずは医療機関で見てもらうことが重要です。労災の申請手続きは、受診した医療機関によって異なります。
労災指定の医療機関で見てもらう場合
労災指定の医療機関で見てもらう場合、あらかじめ会社にぎっくり腰を発症したと報告し、請求書に照明をもらいます。
その後、労災指定の医療機関を受診し、医療機関に請求書を提出します。
治療は無料で受けられますが、労働基準監督署によって労災と認定されない場合、治療費を支払わなければなりません。
一般の医療機関で見てもらう場合
一般の医療機関で見てもらう場合、ひとまず自己負担で治療費を支払います。
その後、会社および医療機関に請求書への照明をもらい、労働基準監督署に提出します。
労災と認定されれば、後日、指定の口座へと治療費が振り込まれるのが一般的です。
ぎっくり腰で労災認定された場合の補償について
ぎっくり腰が労災認定された場合、
- 療養補償給付
- 休業補償給付
が支給されます。それぞれについて簡単にご紹介します。
療養補償給付
療養補償給付は、ぎっくり腰の治療にかかる費用を意味します。
ぎっくり腰の完治、もしくは症状固定(これ以上の改善が期待できない)まで給付がおこなわれます。
休業補償給付
休業補償給付は、ぎっくり腰で仕事ができない期間に、賃金の代わりとして支払われる給付です。
通常は発症までの3ヶ月の給料を、1日あたりに割った額の8割程度が支払われます。
デスクワークの方はぎっくり腰を予防しましょう!
ぎっくり腰で労災が下りる例はそれほど多くありません。
また、ぎっくり腰で労災認定された例も、身体を使った仕事をする方に多く見られます。
基本的にデスクワークの方がぎっくり腰を発症しても、労災が下りることは考えにくいでしょう。
そのため、普段からぎっくり腰の予防に取り組むことが重要です。
筋肉や関節を柔軟に保ち、心身のストレスを解消すると、ぎっくり腰の予防につながりますよ。